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本当の勇気

　 本当に勇気のある行動とは？　

森竹高裕

東京のある小学校で起こった出来事をもとにした授業をおこなった。まず「これは本当にあったお話です」と前置きしてから、次の話を聞かせた。
　

◆資料１
　それは　図工のじかんでした。いきなりゆみさんが「ワーッ」と　なきだしました。すぐに　ゆうじくんが「ごめんね、ごめんね、ごめんね」と　あやまりました。「ぼくの手がぶつかっちゃったんだ。ごめんね、ごめん」
　なにごとかと見ると、ゆみさんの　スカートから　ゆかにかけて、びしょびしょです。えのぐの　ふであらいバケツを　こぼしたというより、ひっかけたようです。 　

話が終わってから、模造紙の資料を黒板に貼った。次に子どもたちに尋ねた。

あなたはゆうじ君をどう思いますか？（一回目）

< いけない >
　・わざとやったみたいだからいけない。
　・みんながめいわくする。
　
< しかたがない >
　・こぼしちゃったものは、しょうがない。
　・友達が押したのかもしれないし、自分にもかかったかもしれないから。
　
まだ話の途中であるし、これだけゆうじ君を十分判断することができないのか、子どもたちの意見も分かれた。話の続きをした。

◆資料２
　それを見ていた　先生は　心で　おもいました。「ゆうじくんか、ありそうなことだな。きょうかしょを　わすれたとき、となりの子の　きょうかしょを　ちゃっかり　かりる子だからな。ぬれぞうきんを　こくばんに　ぶつけて　こまったことを　してくれたっけ。

あなたはゆうじ君をどう思いますか？（二回目）

< いけない >　２１人
　・普段から悪い子だから、いけないことをしたと思う。
　・先生だって、いけないことをしたと心の中で思っている。
　
< しかたがない >　１２人
　・しかたがない。普段は悪くても、わざとじゃないかもしれない。
　
先生の話を聞いたところで、意見を変えた子が続出した。普段の様子がその決め手になったようである。「まだ話の続きがあります」と続けた。

◆資料３
　先生は　ゆみさんを　すぐに　ほけんしつに　つれていき、たいそうぎにきがえさせました。そこで　思いもよらないことが　わかりました。
　ゆみさんは　なきべそをかけながらいいました。
「ゆうじくんを　しからないでください。わたしが　わるいの」
「きみがわるい？　どうして？　きみは　バケツの水を　かけられたんだよ」

発問３　一体、何があったんだと思いますか？

　・早く続きを聞かせて
　
とせがむので、次に進む。何が起こったのか、子どもたちも興味津々といった様子である。

◆資料４
　わたし、二じかんつづきの　図工だったので、つい　トイレに　行くのをわすれちゃったの。色ぬりが　とちゅうだったので　ぬっていたら、きゅうに　おしっこが　出たくなっちゃったの。立とうとしたら…。出ちゃったの。
　Ｏくんは　うしろのせきで　見ていたみたい。それで　ゆうじくんが　小さい　こえで「たいへんだ」といって、ふであらいバケツの　水を　かけてくれたの。

これを聞くと、ホーッというようなため息と共に、「なにー？」「いいことしたじゃん」という声が口々に聞こえてきた。ここで三たびゆうじ君をどう思うか尋ねてみた。 　

発問４　あなたはゆうじ君をどう思いますか？（三回目）

< ただのいたずらじゃない >　３１人
　・ただいたずらをして、ゆみ子さんを困らせたのではない。
　・女の子がもらしたのだから、かけたのはいいことだと思う。
　・自分は怒られても、友達を助けたからいいと思う
　
ことの真相を知って、ゆうじ君にたいする認識が逆転したのである。子どもたちには、軽率に人の善し悪しを判断できないことを学んでほしいと思った。そして何より驚くことには、この話が実話であるということである。こんな子を育てたいと願う。

本当のゆうき


それは，図工の時間だった。
いきなりＡさんが「ワ−ッ」と，なきだした。
するとすぐに，Ｏ君が「ゴメン，ゴメンネ，ゴメンネ」とあやまった。
「ぼくの手がぶつかっちゃったんだ。ゴメンネ，ゴメン」
何事かと思ってみると，Ａさんのスカ−トからゆかにかけて，ビショビショである。
絵の具のふであらいバケツをこぼしたというより，ひっかけたようだ。

先生は，Ａさんをすぐに保健室につれていき，体そうぎにきがええさせた。
そこで，思いもよらないことがわかった。
Ａさんは，なきべそをかきながら言った。
「Ｏくんをしからないで下さい。私が悪いの」
「Ａさんがが悪い？どうして。君はバケツの水をかけられたんだよ」

「私，二時間続きの図工だったので，トイレにいくのを忘れちゃったの」
「色ぬりがとちゅうだったので，ぬっていたら，急におしっこがでたくなっちゃったの。立とうとしたら・・・・・・出ちゃったの」
「Ｏ君は後ろの席で見ていたみたい」
「それで，小さい声でたいへんだと言ってふであらいバケツの水をかけてくれたの」