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ハトとカラス

　ハトのお世話で考えさせられたこと

森竹高裕

　３年生の仕事の一つにハトのお世話がある。餌をあげたりフンを片づけるのが主な仕事である。先日このハト小屋にカラスが入り込み部屋を荒らすという大事件があった。卵は砕かれ、それを守ろうとした母親ハトが頭をくちばしで突かれ額は血まみれになった。幸いハトは動物病院で看ていただき命は取り止めたが、その後もカラスは２度３度とハト小屋に入り込みハトはおびえていた。

　さてこのことを道徳で取り上げ考えてみることにした。これまでの経過を話し

カラスの知っていることに賛成ですか、反対ですか。またカラスに何と言ってやりたいですか。

〈反対〉１４人
　・ハトにけがをさせたから「やめろ」
　・ハトがとても傷つきそうだから「今度からやめて」
　・カラスのしていることは意地悪だから「来るな」

　このように全員が反対であった。カラスは完全に悪者である。黒板にカラスの絵を描いて

このカラスに何をしてやりたいですか。黒板に書いたカラスにやってみてください。

　・棒で叩いてやる。
　・学校から追い出す
　・同じことをやり返す
　・牢屋に入れて苦しめる
　・パンチする
　・ひもで首をしめる

　みんな過激である。黒板のカラスにパンチをしたり棒で叩いたり「ばかやろう」と叫んだり、その都度に笑いが起きていた。ひとしきり騒いだあと、カラスの事情について話をした。

カラスがハト小屋に入ってきたのは、カラスの赤ちゃんを育てるためだったんです。ナイターのところにカラスの巣があります。そこに三匹の赤ちゃんがいるんだね。赤ちゃんのためにたくさんの餌がいるので、危険でもカラスは小屋の中に入ってきたんです。親ガラスだけの餌ではなかったんです。

　このようにカラスの事情を説明した。

　今まで一方的にカラスは悪者という見方が少し変わってきたようだ。説明のあと、同じこともう一度尋ねてみた。

カラスの知っていることに賛成ですか？反対ですか？

「うーん、むずかしい」という声もあったので、賛成と反対の中間でもよいとした。すると〈賛成〉１人〈中間〉１０人〈反対〉３人であった。理由を尋ねてみると

〈賛成〉１人→３人
　・自分の分は赤ちゃんにあげて、赤ちゃんを育ててあげているから。

〈反対〉３人→５人
　・ハトの命もあるし、卵を食べちゃうとハトが悔しい。
　・赤ちゃんがいるからって、ハトをつついちゃダメ。

〈中間〉１０人→６人
　・カラスの赤ちゃんのためならいいけど、ハトをいじめるのはいけない。
　・ハトをつつくのはだめだけれど、子どもがいるからカラスも大変。
　・ハトの卵を持ってくるのは悪いけれどカラスもいい。（理解できるところがある）

　さてここからグループごと作戦を立てながら討論をした。ジレンマを含んでいるので大変白熱した話し合いになった。

• ハトの餌をとっていくのは苦しい。でも赤ちゃんの餌を上げるのは大変。カラスの親だって頑張っているから賛成。
• ハトの卵が食べられてもいいの？　もし自分が命を取られたらどうするの？　だから反対。
• カラスの赤ちゃんが死んでもいいですか。ハトの気持ちもわかるけれどカラスだって頑張っている。カラスの赤ちゃんはせっかく生まれてきたんだから、お母さんはちゃんと子育てをしないといけない。〈中間〉
• カラスのお母さんがこんな変なことをしたら、子どもだって変になる。ハトの卵も１個ずつ大切に育てないといけないから反対。

　どの言い分にも理がある。ハトの命もカラスの命も命という意味では違いのないことに気づいているのである。「どっちもどっちだ」という声が上がった。するとある子がこう発言した。
　・カラスの卵をねらわないで外の食べ物を取ればいいのに

カラスも外に食べ物があればいいんですね。他の食べ物をあげられないかな。

　・給食のパンの残りを上げたら？

　こんな声があがった。親ガラスは親ガラスの立場で頑張っていたのである。今回こんなことを学んだ。