森竹高裕
「アンパンマンはどうして自分の頭を食べさせるのだろう？」という疑問が授業になりました。
テレビのアンパンマンを見ていて長い間「なぜ、アンパンマンは自分の頭を食べさせるだろう？」と不思議に思っていた。このことを子ども達にも聞いてみたいと思った。 まずはじめに、テーマ曲「アンパンマンのマーチ」を流した。「アンパンマンなんて幼稚だ」「カッコ悪い」なんて言っているくせに、曲が流れると大声を出して歌っていた。みんな本当は好きなくせに…。 テーマが終わったところで
・空を飛ぶ ・マントがある ・でっかい鼻 ・食べられちゃう ・アンパンチが武器 ・ジャムおじさんに顔を作ってもらう ・目が×になることがある ・カレーパンマン ・バイキンマン ・バタ子さん ・チーズ ・脳みそがない すっかりアンパンマンの世界に入り込み「カレーパンマンも頭を食べられるんだよ」「いや、そんなの見たことたい」と議論が始まった。それを制して
ウルトラマンにしても仮面ライダーにしてもヒーローはいつもかっこよくてスマートである。自分の頭を食べさせてしまうヒーローなんて見たことがない。ちょっと見たときに、残酷にさえ感じる。子ども達が持ってきた絵本にも、アンパンマンの頭が半分くらいなかったり、中にはカラスにつかれて食べてしまった絵さえある。 これを見せると「へんなの」という笑い声が起きた。一体どうしてアンパンマンは、自分の頭を食べさせてしまうのであろう。
これらの答えが間違っているわけではない。しかし、さらにもう一歩深く考えさせたかった。そこでテーマ曲「アンパンマンのマーチ」の歌詞を配り
・“やさしい君は いけ、みんなの夢守るため” 優しさがあるから。 ・“いけ、みんなの夢守るため” 励ましている感じがする。 ・“たとえ胸の傷が いたんでも” 胸の傷がいたんでも、喜んでもら えるからうれしいこと。 ・“そうだ、恐れないで みんなのために” みんなのために役立つこ とをしようというところ。 ・“忘れないで夢を こぼさないでで涙” みんなの悲しい顔をたくな い。 テーマにかかわることがいくつか出てきた。そこでもう一度同じことを考えていた。
ここまで話し合ったところで、あるお母さんに借りた「アンパンマン雑記帳」という一文を読みかせた。アンパンマンというヒーローが生まれるまでの経過がよくわかる素晴らしい文である。やなせたかしさんは「人に施しを与えるのは痛みを伴うものである」ということをアンパンマンを通して伝えたかった。 アンパンマンのテーマの一つに「自己犠牲」がある。最後にこのテーマにあったビデオ（ｖａｐビデオそれいけアンパンマン８「イタイのとんでけダケをさがし出せ」）を見せた。 ビデオを視聴したあと感想等を書かせた。
〈やなせたかしさんがいちばん伝えたかったこと〉
〈授業の感想〉
◆資料 【アンパンマン雑記帳】「詩とメルヘン'76年６月号」（サンリオ） 怪傑アンパンマンは五月号で第一部完結となりました。はじめに予定した結末と全くちがってしまい作者がびっくりしていますが、このあと、書き続けるかどうか、まだはっきりしていません。一応雑記帳のかたちでとりとめもなくアンパンマンおよび、ぼくのメルヘンについての考え方をお話しておきたいとおもいます。 本当の正義とは？そして ぼくがまだ子供のときのこと アンパンマンは、ある日アンパンを見ていておもいつきました。ぼくはだいたい子供番組のスーパーマンものを見るのが大好きであったのですが、見ていて納得できないのは、スーパーマンと怪獣がやたらに大あばれするあたりじゅうメチャメチャに踏み荒しても、被害者に謝りにいったりしない。正義の味方というけれど、本当の正義とはいったい何だろう？ そして、我々が本当にスーパーマンに助けてもらいたいのは、たとえば、失恋して死にそうな時、おなかがすいてたおれそうな時、あるいは旅先でお金がなくなった時、その他いろいろあるわけで、そういう細かいところに気がつく優しいスーパーマンがいてほしいのです。鉄橋もちあげたり、全くいそうにもないビニール製の怪獣をなぐりつけてもらっても、あんまり心からよろこべない。 ぼくがまだちいさい子供の時、遠くの町へ遊びにいって財布を落してしまった。ぼくは何も食べることもできず、第一、電車のキップを買うお金がない。日暮れは追ってくるし、まわりは知らない人ばかり、いったいどうしだらいいのか、死ぬほど心細かったのです。 しかたなしに、ぼくは線路を歩いて１２キロばかり離れた自分の家まで帰ることにした。ぼくは駅へいった。そしてぼうぜんとしばらくそこにたっていた。日暮れの駅ほどあわただしくさびしいものはありません。 誰もかれも、急ぎ足で正確に自分の家を目指して帰巣本能の命ずるままにせかせか歩いていて、ひとりのパッとしない少年がお金がなくて死ぬほど困っていることに気がつくひとなどはいません。 無限とみえるほど大勢の人がいても、それは全く自分とは無関係で、言葉さえ通じない異国の人、いや、むしろ、人間以外の何かのようにさえみえます。ぼくはノロノロと移動して、線路への道をさがそうとした時、「やなせ君！」と呼ぶ声がする−。 見れば、ぼくの友人のＫ君がお母さんと一緒にいるではありませんか。地獄に仏！真実の神！ぼくはＫ君とそのお母さんのところにライトがあたってそこだけバラ色に輝いているようにみえました。 その夜、オレンジ色の光の窓を行列させながら走っていった帰りの電車の中で食ベたアンパンほどおいしい食べものをばくは知りません。アンパンはぼくの食道にしみ、胃の粘膜（ねんまく）にしみ、心にしみた。ぼくは甘美な恍惚感（こうこつかん）にひたった。幸福は、時として不幸の時に実感する。 ぼくはその時に思った。本当のスーパーマンは、ほんのささやかな親切を惜しまないひとだと。そして、そういう話をいつかかきたいと子供心に考えたのです。 「アンパンマンのマーチ」 作詞：やなせたかし 作曲：三木たかし 編曲：大谷和夫 そうだ、うれしいんだ生きる喜び たとえ胸のキズが痛んでも なんのために生まれて、なにをして生きるのか？ 答えられないなんて、そんなのはイヤだ 今を生きることで、熱い心燃える だから君は行くんだ微笑んで そうだ、うれしいんだ生きる喜び たとえ胸のキズが痛んでも ああアンパンマン やさしい君は 行けみんなの夢守るため なにが君の幸せ、なにをして喜ぶ？ わからないまま終わる・・ そんなのはイヤだ 忘れないで夢を こぼさないで涙 だから君は飛ぶんだどこまでも そうだ、恐れないでみんなのために 愛と勇気だけがともだちさ ああアンパンマン やさしい君は 行けみんなの夢守るため 時ははやく過ぎる 光る星は消える だから君は行くんだ微笑んで そうだ、うれしいんだ生きる喜び たとえどんな敵が相手でも ああアンパンマン やさしい君は 行けみんなの夢まもるため ◆ワークシート アンパンマンの心 なまえ（ ） Ｑ１．アンパンマンはなぜ自分の顔を食べさせるのだろう ２．なぜそこが気に入りましたか Ｑ３．やなせたかしさんが一番伝えたかったこと Ｑ４．授業の感想を教えてください ◆参考にしたサイト アンパンマンは笑顔の味方 1999.8.22 http://www.infomadonna.ne.jp/~nnek/chrpt/col/p1-20/clm13.htm ヒーローの条件 http://www.d2.dion.ne.jp/~matchy/anpan.html 「見せたいテレビ見せたくないテレビ」について http://www.yukichi.ne.jp/~deko/colums/GOIKEN2.htm |