習熟度別学習の何が問題か

「習熟度別学習の何が問題か」佐藤学（岩波ブックレット）４８０円　が大変おもしろく参考になり刺激を受けました。　　

森竹高裕

◆概要

習熟度別のクラス編成による教育は、一般の予想を裏切り、生徒の学力向上　に有益ではない。この指導は「上位」グループの一部の生徒にのみ有効に機能する。

２１世紀において求められる学びはプロジェクト型の学びです。教育内容（単元）をプログラム（段階）としてではなく、プロジェクト（課題）として捉え直す必要がある。

協同学習とは、何らかの作業や活動があること、３人から５人のグループによるイメージや意見のすり合わせがあること、そして多様な思考を表現し交流して、各自の思考を吟味するコミュニケーションが組織されることの三つの要素ですべての授業を組織することです。

これまで見聞してきた先人と「同じことを言っている」と感じる件がいくつもありました。どこがどう似ているのか、比較してみました。

学力向上のポイントは学力向上を直接的な目的にしないということです。学力向上を目的的に追究することは、土地も耕さず生育も促さずに収穫だけを算定し追究する愚かさに似ています。

「百日草」
　　　　　　　星野富弘
美しく咲く　／　花の　根元にも　／　みみずがいる
泥を　喰って　／　泥を　吐き出し　／　一生　土を耕している
みみずがいる　／　きっといる

「上農は土をつくる」
　　　　　　　　　　　東井義雄
お百姓さんから教えてもらった言葉があります
下農は雑草をつくり
中農は作物をつくり
上農は土をつくる
ということばです。
あなたの仕事を省みて「なるほど」と思いませんか
「作文」だけがんばっていても「作文」が育つものではありません
「理科」だけがんばっていても「理科」が育つわけではありません
「勉強」「勉強」と「勉強」攻めにしていても「勉強」は育ちません
自転車のタイヤを直接ささえているのは三センチの道幅であっても
幅が三センチの道を自転車で走ることは不可能です
直接にはたらいているように見てないところにも
間接に大切なはたらきをしているのです
だからこそ
「上農」は「土」をつくるのです
どうか　どうか
子どもの生活全体を
豊かなたくましいものに
育ててやってください
「遊び」でしか育て得ないものを奪ってしまうことを自戒しましょう
「家庭」でしか育て得ないものまでも「学校」が奪ってしまうことを警戒しましょう
教育の「土」を作る教師を目指しましょう

協同学習が実りあるものとして展開されているかどうかは、子どもたちの声によって判断することができます。活発に意見が交流されているときには注意が必要です。声のトーンが高いときは思考のレベルが低く、思考のレベルが高いときには小さな声で穏やかな語りになる傾向があるからです。

「遠くから聞こえる音楽」
　　　　　　　　　　　周郷博
「よい教育は　よい音楽のように　　遠くから聞こえる　静かな声だ」と
ぼくは　思った。
教育の効果ばかりあせってはならぬ
教え込もうと　あせったり
バカ高い声を　出したりしない方がいい

これから求められる学力は「高度の複合的な知識」であり「創造的思考や問題解決能力やコミュニケーション能力」であり「多様な人々と共生する個性」であり一生涯に渡って学び続ける能力です。知識と学びの「量」から「質」への転機が起こっているのです。

市川伸一「習得サイクルと探究サイクル」
http://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/kk-02/tashika/
http://www.sendai-c.ed.jp/h15/fron/kyougikai-shiryou.pdf

習熟度別指導に代替する学びは、一斉授業による学びではありません。一人一人の多様性が交流される「協同的な学び」です。協同的な学びは、個人主義の競争を排除し、多様な能力や個性を持った子どもたちが共存・共生してお互いの際を交流して学び合う。

鈴木惠子「人間関係を学ぶところ」
　いい授業とは、子どもたちがかかわりの中で学んでいます。教材を通して人間関係を学んでいます。グループ学習の中で、知識を獲得しているんです。（藤枝市立高洲南小学校の研究会で）

「協同学習」は「評価」と「競争」ではなく「信頼」と「連帯」に支えられた教師と子どもの関係と仲間関係を求めているのです。協同学習とは、多様　な個性や能力を持った子どもたちが協同で学び合うところに「背伸びとジャンプ」を一人一人に保障するダイナミックな学びが成立する可能性があるのです。

鈴木敏恵「プロジェクト学習」
　未来教育プロジェクト学習とは、子どもたちが意志をもちゴールへ向かい戦略をたて、必要な情報を集め、個を活かしたチームワークで新しい知を創造しながら、困難を乗り越えより高い成果へ到達していくそのプロセスにおいて様々な力をつけることをねらいとするものである。課題解決力、情報活用力、思考力、コミュニケーション力、表現力など21世紀を生きる力を身につけることができる。プロジェクト学習を経験した子ども達は、問題解決力、判断力、あふれる情報から確かな真実を得るセンス、変化への対応力、新しい事態や未知へ向かう勇気を身につけるだろう...プロジェクト学習は、挑戦者を育む未来教育だ。

◆自分の実践ではどうか

　現在、おこなわれている習熟度別指導について考えてみます。算数の計算技能に限定しておこなうのなら効果を期待できそうです。しかし、これを他教科に広げたり、教育のあらゆる分野でやろうとすると（行き過ぎると）マイナスに作用するはずです。

　景気が良くなり予算の裏付けがとれれば、いずれ３０人学級になるでしょう。そうすればどうせなくなる少人数加配・ＴＴ加配です。予算上の「やむを得ない措置」だということは、最初の頃から言われています。現場は一人でも多く人がほしいから、どんな形であれ人を受け入れています。私個人としては、習熟度別指導に時間と勢力をかけないつもりです。

　今後は、プロジェクト学習を推進していきたいと思いました。これまでの実践でも、それに近いことをしています。総合的な学習では、ビオトープづくりをしました。これなどまさに「プロジェクト学習」と言えるのではないでしょうか。そのほかにも、次のことがあてはまると思います。

美しい自然を身近に（ビオトープ）
http://www.geocities.co.jp/Berkeley/8401/sougou/hotaru/hotaru00.htm

学級をまとめるミニパーティー
http://homepage1.nifty.com/moritake/gakkatu/miniparty.htm
http://homepage1.nifty.com/moritake/essay/party.htm

会社のミニイベントが学級を盛りあげる
http://homepage1.nifty.com/moritake/gakkatu/kaisya.htm

グループ体験活動（総合「藁科川」「お茶」）
http://ezy10157.hp.infoseek.co.jp/h15ronbun/siryo04.pdf

１０歳を祝おう（二分の一成人式）
http://homepage1.nifty.com/moritake/kokugo/4/2bunno1seizinsiki.htm

４年社会：消防士の仕事（学校が火事になったらどうやって消すか？）
http://homepage1.nifty.com/moritake/syakai/4/kazi07.htm

前にもどる　シリウスtop　

習熟度別学習の何が問題か